2025/04/08
崖から突き落とす

母と娘の受験期
娘からのLINE
2015年11月8日 17:11
ママにもいろんな事情があってのことだったとは思うけど、
私は、自分が感じたような寂しさを、子どもには味わわせたくなかった。
だから、ママは3歳だった私を置き去りにして出て行ったんだよね。
私には理解できない理由だったけど…。
でも、私は今、受験生。
いちいち感情に振り回されて落ち込んでる暇なんてないの。
私は、最終目標をブレずに持っている。
私はストイックだから。
ママみたいに、過去のことをいつまでも思い返してクヨクヨしたり、
未来のことを心配して鬱っぽくなるような生き方はしたくない。
“今・ここ”でできることを、精一杯やって、
それをとことん楽しみたい。それが私の考え方。
ママの好きな心理学もいいけど、
人はみんな違う背景を持って、それぞれの人生を生きてる。
そこに型にはまった考えを持ち込むのって、先入観になりがちで、私はあまり好きじゃないの。
ママの考えは、いつも矛盾してて、葛藤してて、
やりたいことをやらなかったり、やりたくないことをやっていたり…。
すぐに違うことを言い出して混乱させたり、反省して謝ったり。
相手が悪くても自分を責めて後悔したり…。
そのくせ、親やパパのせいにしたり、自己嫌悪に陥ったり…。
正直、私はママに育てられなくてよかったって思ってる。
きっと、そうじゃなかったら、
私は楽観的になれず、何でも悲観的に考える人間になっていたかもしれない。
たぶん、お兄ちゃんもお姉ちゃんも、私と同じ気持ちなんじゃないかな。
私たちはもっと、楽観的でオープン。
言いたいことは言えるし、自信も夢もある。
人生は一度きり。今日も一度きり。
明日の保証なんて、神様だってしてくれない。
それなのに、ママはいつも不安で、心配ばかりしてる。
本当は世界って、もっと楽しくて、おもしろくて、おかしいんだよ。
私が失敗したって、それが何?
一度失敗したら終わり?悪いこと?
失敗を「失敗」と見るか、「学び」と見るか。
そこがポイントだよね。
ただの見方の違い。それだけの話。
一喜一憂してたら、人生に何が残せるの?
たとえ、小売りのようにまじめで潔癖で、
雪のように白くても、世の中の泥や悪からは逃げられないよ。
ママみたいに真面目に考えすぎると、心が病んでしまう。
どんなに小さくても、可能性を嫌わず、信じてやってみることが大事。
私が今夢中になっているもの。
それは、私が本当に求めている確信があるから。逃げたくない。
私に必要なのは、目標を達成するための知恵と、それにかける時間。
夢中になれることがあるって、すごく幸せなことなんだよ。
私はあきらめない。たとえ叶わなくても、夢を持ち続ける。
そして、死ぬときには笑っていたい。
そしたら、生まれ変わることが楽しみになる。
ある作家が言ってた。
「人間には2種類しかいない。成功も失敗もする人と、何もしない人。」
私もそう思う。
お金が足りなくても、私たちは幸せに生きてるよ。
📩 毒親だった私が娘に送ったLINE
2015年11月8日 23:36
無事に一人で羽田空港に着いたのね?
いつもあなたとはガチンコになってしまうけれど、ママのことをどうか理解してください。
いろいろ忠告もありがとう。
でもね……あなたはまるで、泥棒みたいだ。
もう、泥棒を家には寄せつけられません。
あなたを養子に欲しがったあの時から、
この家が壊れていくような気がして、不安で、怖くなってきました。
もう、この家に憎しみはいりません。
泥棒には、出て行ってもらいます。
今さらこんなことを言うのは悪いけれど、
あなたの言う通り、私はきっと間違っている。
だからこそ――私と絶対に離れて、もうここには来ないでください。
これ以上、悲しみや不愉快を増やしたくないのです。
私の「息のかかる場所」には来ないで。
どちらかが倒れてしまうかもしれないから。
私は「病気」だと思って、どうか諦めてください。
📩 娘からの返信
2015年11月9日 0:42
元々、あなたを頼ろうとは思っていません。
私は一人暮らしをするつもりです。
でも「泥棒」ってどういう意味?
ちゃんと説明して。どうしてママはそんなふうに思ったの?
私のこと、嫌いになったの?
家を壊すなんて気持ちは、これっぽっちもありません。
ママはいつも失礼で、どうしてそんなに疑ってくるの?
ひどくネガティブだよ。
ママは、私のことを知らなすぎる。
人間不信すぎて、子どもの私さえも信じられないなんて。
「病気」だとかなんだか知らないけど――
ママは母親なんでしょ?もっと自信をもって生きてよ。
強く、ポジティブに。
子どもたちの見本になるように生きてほしい。
今まで、私はママの言うことを聞いてきた。
でも……今のママを見て、とてもがっかりした。
名言集とか、ポジティブになれる本とか送ってくれるけど、
結局、自分には何も身についていないんだね。
そんな本やセラピーに頼らなくても、
落ち込むときには落ち込むし、嬉しいときにはちゃんと嬉しい。
私は、自分の感情を大切にして生きているから大丈夫なの。
私は後悔してない。
ママに振り回されても、それも経験だから。
ママだけが特別じゃないよ。
一緒に「ママと闘おう」と思ってた。
だから、ママが変なときには、私はストレートに言う。
ママが一番孤独で、不安定で、悔しくて、苦しんでる。
それ、私には分かる。
だからこそ、ママには気づいてほしい。
ママは「ひとりぼっち」じゃないよ。
ママが厳しいから嫌いなんじゃない。
本当は、ママが大好きなんだよ。
みんなそう。本当は、ママが大好きなの。
今は、信じてもらえなくてもいい。
だけど、命をくれたママを恨む子どもなんて、誰一人いないから。
そのことだけ、わかっていてほしい。
ママが昔、自分の親をバカにしたり、嫌ったりしていたこと、
私はよく分からなかった。
私は、おばあちゃんのこと、ちゃんと大切な存在だと思ってる。
ママは「生みの親」で、かけがえのない存在。
それに加えて、何十年も育ててくれた家族も、私にとっては本当に大切。
両方とも、大切なんだよ。
いいかげん、被害者意識はやめて。
もっと言いたいことがあるなら、私にメールでも電話でもしてよ。
私はちゃんと受け止めるから。本気で話そうよ。
わかり合うには、さらけ出すことが大事なんだよ。
ママに話し相手がいないなら、私にぶつけてよ。
私はママをバカにしたり、嫌ったり、絶対にしない。
そんな人を許せないって思ってる。信じられないかもしれないけど、私は信じてる。
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📩 母からの返信
2015年11月9日 8:39
今まで、私のエゴと寂しさから、たくさんのことをしてしまった。
心から反省しています。
私は、大切なあなたを崖から突き落としてでも教えたい。
それが、私なりの「本当の愛」なんです。
一度も一緒に暮らすことができなかった。
だからこそ、その事実のまま、他の場所で生きてください。
私のことは、あなたの心から消してください。
憎しみに変わらないよう、離れていましょう。
私も、あなたも、良い面を伸ばしていこう。
それが一番、良いことだと思います。
📩 娘からの返信
2015年11月9日 22:12
……馬鹿みたい。
今さら「崖から突き落とす」なんて言うの?
何度も何度も、私を突き落としてきたくせに。自覚ないの?
「それが本当の愛」?
ママって本当に、自分勝手で、保守的で、プライドばかり高くて、
そのくせ、すごく弱虫な人だよね。
何を言っても、全部「押しつけ」にしか聞こえないんだよ。
突然、手のひらを返して、責任も取らずに放棄しようとしてるの?
それって……子どもすぎるよ。
「自分だけが辛い」とか「不幸」とか、「運がない人間」とか。
私だって、いろいろあったよ。
外出禁止、トイレ掃除、両親のケンカ、もっと酷いこともあった。
ママだけじゃない。もっと大変な人だって、たくさんいるよ。
私はちょっと何かしただけで、木の棒で叩かれたり、
テレビ禁止になったり、誕生日を祝ってもらったこともなかった。
その時はすごく辛くて、自分は不幸だって思ってたけど、
今は、その厳しい躾けがあったからこそ、強くなれたって思ってる。
どんなことも、「たいしたことない」って思えるようになった。
でも、ママはその逆。
辛かったことを、ずっと引きずって、マイナスにしてる。
それで本当にいいの?
私はママを恨んだことなんて、一度もない。
ママを殺したいなんて、思ったこともない。
憎しみなんて、1mmも持ったことがないのに、
なんでそんなに疑うの?
なんで今になって、そんなことを言うの?
今までのことは、全部嘘だったの?
……それなら、それでもいい。
でも、それならママが全部背負う覚悟と自信と、根拠を持っていてね。
そして、それがママの「本気の望み」なら――
さよならでも、仕方ない。
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📩 母からの返信
2015年11月10日
あなたの養子縁組を解消したいと口にしたら、
お姉ちゃんから「信じられない」って言われました。
私は「ママは更年期だから、どうかしてるのよ」って、
情けない言い訳をしてしまった。
今日、あなたが小さかった頃にくれた手紙や絵を見つけました。
そこには、どれほどあなたが私に愛を注ぎ、
励ましてくれていたかが残っていました。
私は、あなたにいつも酷いことばかりしてきた。
心から、ごめんなさい。
私は、母親らしくなるよう努力します。
だから、あなたが時々思い出してくれたら、
どうか自由に会いに来てください。
今は親子が逆転してしまっているけれど、
お互いに卑屈にならないようにしましょう。
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📩 2016年1月20日
ホテルに泊まり、一人で受験。
キットカットのチョコが届きました。とっても嬉しかったです。ありがとう。
メッセージも、心が温まりました。受験、最後まで頑張ります。
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📩 2016年3月20日
受験には落ちました。浪人が決まりました。
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📩 2016年3月26日
母の一周忌が、実家で行われました。
長女家族、長男、次女、次男と共に、母の法要に参加しました。
その日は渋滞に巻き込まれてしまったけど、
みんなはやさしくて、私を許してくれていると感じました。
私は――どうか皆に喜ばれるような存在になりますように。
私は――どうか皆に幸せを与える存在になりますように。
私は――みんなの中で、花のような存在でいられますように。
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当日の流れ:
12時 食事
15時 実家に到着
18時 みんなで帰路へ
20時 温泉で夕食
22時 帰宅・就寝
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お母さん――
たくさんの家族に集まってもらえて、すごいね。
あなたが、子どもたちに食事やお小遣いを渡していたこと、
私は知らなかった。ありがとう。
もっと、真剣にあなたと向き合って、思いっきりケンカすればよかった。
もっと、信じたかった。
私は、あなたからもっと学びたい。
これからも、ちゃんと学んでいきます。
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2016年3月
娘に捧げる詩
「ママが好き」
三つ子の愛おしさよ。
いまでも、好きと言ってもらえるままで居たいよ
好きって言われるために、私は自分のカルマを溶かすよ。
でなくては、自分の命の芽を詰んでしまいそうだから
それは避けなければならないから、一刻の別れも仕方ないよ。
「ママが好きなんだもん」という可愛い三つ子の声よ。
子を持つ親の幸せを頂きました。
あなたが大きくなったら
心を開いて何でも話せる関係でありますように
愛するあなたがこの先も私を理解して許してくれますように
あなたは自分自身の弱さに負けないで
光の中を歩んでいけますように
中庸の場所に多く入れますように
あなたは本当に輝いて産まれてきました。
磨けば光る宝石の原石の様に輝いていました。
キラキラしたあなたが本当のあなた
出てきた出てきた底力
あなたの笑顔が私に降り注ぐ
もう大丈夫生きていける
あなたが私の命の証
今、この瞬間が永遠ならば
私は今、あなたとこの時間を過ごせたことが最高の幸せです。
希望です。愛です。平和の安らぎです。
素敵なあなたへ
ありがとう。